死にたいけどトッポッキは食べたい(読書記録)

 

 

まず何といってもタイトルが秀逸。
「死にたい」という極端で究極な言葉と「トッポッキ」という韓国でメジャーで気軽に食べられるスナックという普通の言葉との組み合わせがすごい。トッポッキが食べたいという普通のこと、あるいはとるに足らない小さな願望のすぐそばに「死にたい」という行き詰まりが同居しているその矛盾、ぐちゃぐちゃさが著者の置かれた状況のままならなさをそのまま表しているよう。

この本はエッセイだが、著者が精神疾患のためのカウンセリングを受けている様子なども赤裸々に明らかにしている。

著者と精神科医とのやりとりは、心に問題を抱えた人が陥りがちな思考の癖がどのようなものであるかを示してくれている。
カウンセリングを受けている時の著者の話のしかたは出来事に対する無理な自己関連づけとそれに伴うネガティブな思考回路にもとづいていて、側から見れば非論理的なものなのだが、当の本人にとってはそのような考え方がデフォルトで染み付いてしまっていてなかなか脱け出すことができない。
考えすぎだよそんなの、と無関係な人間からは無責任に言い放つことはできるが、本人からしたら考えすぎているなどという意識は毛頭ない。
そのことが精神疾患を抱えた人とそうでない人との認知の乖離を示唆していて、興味深い。

患者と医師とのカウンセリング記録を読むことってなかなかなく、貴重な体験だった。精神疾患患者の持つ無意識な思考の癖を追体験していくことは、自分自身がそのような思考の癖に陥っていないか、それで苦しくなってしまっていないか、ということを立ち止まって考えさせてくれる。